『緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン』雑感

国連のこの『(仮訳)緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン』は相当ひどいと思う。過激派の発想だよ。とてもじゃないが、日本にはそぐわない。いくら日本がこの条約に批准しているからといって、このガイドラインを馬鹿正直に受け入れるべきでは無い。現実問題として徹頭徹尾無理がある勧告だと思う。
常々、国連は日本を解体させるような、日本文化に合わない西洋的な価値観の押し付けをしてくると思っていたが、これもその最たるものだなと感じた。

まず、なんでもかんでも「脱施設」を主張しすぎ。最初の「目的およびプロセス」でも述べられているが、とにかく「施設を無くせ」という論調。グループホームすら無くせと言っている。おかしいだろう。
障害者を施設に閉じ込めるな、自由をくれ、地域で暮らせるようにしろ、ということなのだけど、今の日本でそれをやったら、まともな支援も得られない、日常生活に著しい困難を抱える悲惨な障害者が、巷に溢れかえることだろう。だって、医療や支援サービスを受け入れることすら、地域で暮らす条件に含まれないのだから。特に病識に乏しい精神障害者がどうなるか、この界隈にいる人間ならすぐ分かることだろうに。

すべての障害者は地域で生活する権利があり、一部の人が自立して生活できず、施設にとどまるべきと決めることは差別である』というくだりがあるのだけど、これもう本当に頭を抱えるよね。重度の障害者が自立して生活できず、施設で暮らすことは、差別ではなく現実解だと思うんだが。
施設があるから精神疾患も悪化せず、なんとか暮らしていける、という人もいると思うし、障害者をサポートするにしても、あちこちバラバラに住まれるよりも、一カ所に集まって暮らしてもらったほうが、手厚いサービスを受けられると思うけどなぁ。

そして恐ろしいことに、『自由なインフォームド・コンセントに基づき、総合的な健康と幸福を取り戻すという観点から、精神科の薬をやめ、栄養プログラムやフィットネス・プログラムを利用するための支援が含まれる場合がある』との文章があった。自由を求めて薬をやめてしまった精神障害者まで手厚く保護しろっていうのは、ハッキリ言って正気の沙汰では無い。
きちんと服薬していても再発する人がいるのに、飲まなくてもいいですよ~って国がお墨付きを与えたらダメだろ。何言ってんだ。もうめちゃくちゃ。この団体は日本を崩壊させるつもりだとしか思えない。

どうせ北欧やイタリアのような精神科病院が無い国を目指せ、みたいな話なんだろうけど、日本には日本の事情があると思う。まず人口規模が全然違うし。
それからたとえば、日本は精神障害者を支える医療福祉サービスの層が薄いとか、偏見がひどいとか。偏見は、よく聞く話だと、障害者にアパートを貸したがらない大家がいる等。そういうのも改善しろ、ってことなんだろうけど、文化的な問題もあるから難しいよ。
精神科医療に関しても、いわゆるオープンダイアローグみたいな先進的な治療をしている医療機関は、日本にはほぼ無いだろうし、あっても保険点数をどうするのか、みたいな話になってくるだろう。多分、現行のカウンセリングと同じような扱い、自由診療になるだろう。
すると、一般的な精神障害者はお金が無いからその治療を受けられない。それが本当に障害者のためになっているのだろうか、甚だ疑問だ。

国連がおかしな要求を日本に突きつけるのは、今回のことだけでは無い(あまり政治的な話はしたくない)が、まーた変な勧告をしてきたなぁという印象。このガイドラインに完璧に批准している国が本当にあるのか知りたいね。